第2グリッド:g2は5極管特性を成立させるだけでなく、入力電極やゲイン調節電極としても使用できますが、それは周波数特性の調整をも可能であることを示しています。

例えば下の図での値が通常設定されるCg2よりはるかに小さいと、g2回路の低音域インピーダンスが上昇することで低音域のゲイン低下が発生してしまいます。




      


この様子をシステム的に見ましょう。まずEg1が上昇することでIg2が増加しますが、この時g2回路のインピーダンスが高いとEg2が低下してしまいます。

すると球のGmが下がる事で、ゲインが低下する訳で、g2による球内部の電流帰還が発生ているともいえます。


          


それならばこれを逆手にとってg2にインダクタンス(チョークコイル)をつなぎ、g2回路の中音域インピーダンスを上昇させれば、中音域以上のゲインが低下し、フォノイコライザーとして活用できるはずです。

この方式の面白いところは、CR型やCL型のように信号がイコライジング素子を直接通過するのではなく、増幅素子そのものに周波数特性を持たせている部分でしょう。

さらにコイルの分布容量やg2の電極間容量により、一定周波数以上でインピーダンスの上昇が抑えられるため、中域から高域のゲイン低下は途中で止まるはずで、これもRIAAカーブの構成に有効です。


     


ともあれ同じプレート電圧なら、約10倍近いダイナミックレンジが確保できそうです。ただし第2ステージとなる時定数75μSつまり2,1kHz以上の高域低下は、普通のCR型(但しCはバリコン)で最後に減衰させます。

そこでまずCg2がある時と無い時とではどれほどゲインの差があるか、下の図の回路で調べると、Cありで170倍、無しでは29倍となりました。

この値は本来RIAA特性に必要な20Hzと1kHzのゲイン差、つまり10倍くらいには不足ですが、とりあえずこのまま作業を続けます。


           


次に具体的なの値を探すために、下のような回路でg2の入力インピーダンスrg2を計測することにしました。周波数1kHzで測定を行った結果、この条件では約38kΩと出ました。ただしこの値はバイアス電圧を深くすると、それに沿って上昇します。


      


またこの値は1kHz以下の範囲にてほとんど変わらず、それ以上では電極間容量で少しづつ低下して行きます。そこで大雑把に入力インピーダンスを50kΩ程度と考えると、1kHzにおいてそれに見合うインダクタンスは8Hとなります。

さらに1kHzの25分の1である40Hzあたりからゲインの変化が十分期待できるインダクタンスを、8Hの25倍である200H程度と予測して市販品から物色してみると、丁度良い製品がありました。

見つけたのは「ラジオ少年」の100H−5mAで、1個650円という価格も魅力です。RIAA特性として用いる素子なのに随分アバウトな決め方をしていると思うでしょうが、これには訳があります。


           


現在使用しているフォノイコライザーは高域にバリコンを使用していますが、バリコンを回す事による微妙な音の変化を考えると、RIAAカーブとの偏差が0,5dB以内云々といった話がアホらしく思えるとわかりました。

つまり実際ははなんとなく高音が低下して行けば、なんとかなるもので、それは今まで聖域のように扱われていたRIAA素子に、非常識にもバリコンを用いたからこそ判明したことです。

もちろん一般メーカーや、真面目な人々からすると、こういった乱暴な話は禁句のはずでして、自由でプライベートな自作ワールドに留めておくべきしょう。ということで早速下の回路図における周波数特性を調べてみました。


          


ただし計測はコイル1個100Hの時と、2個直列200Hの場合をグラフにしてあります。





青い点線が本来ファーストステージに必要な周波数特性ですが、1kHzから3kHzあたりまではg2容量とコイルのインダクタンスがバランスして、ラッキーにもフラットな特性となっています。

さらに3kHz以上でコイルの分布容量によりg2回路のインピーダンスが低下することで、ゲインの上昇が発生しています。そこでこれは無理につぶさずトーンコントロール用の高域マージンとしましょう。

また1kHz以下では、特に2個直列時になんとなく「RIAAカーブ風」となっているので、問題ないことにしました。と言うよりあれこれ悩むよりも、まず出音を聞いてから考えたほうが早いと思ったのです。

ラジオ少年では同じサイズで200H−5mAタイプ(900円)も売っていますので、スペースファクターやコスト的にはそれもアリです。

実際に購入して計測しても、ほとんど100H2個直列と同じカーブとなり、表示するとかえってカーブが見にくくなるので省略しました。

20kHzの入力対歪率カーブは下記のようになっていて、定格の50mVなら0,9%、10倍である500mVでも4%で収まっています。


      


50mV以下で歪が上昇するのは、ワニ口コードで接続されたバラックセットによる、ハムノイズの影響と思われます。

一方100Hの2個直列では若干割高ですが、それぞれの接続を逆にして外部磁束を打ち消す、いわゆるハムバッキング効果か期待できます。こうして実験の第一段階が無事?終了しました。


つづく





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